内田康夫最後の作品にして初の夫婦共著。
短歌でつづられる夫婦の愛の物語────
《内田康夫からご挨拶──2017年春》
「ご無沙汰しております。内田康夫です。
2015年の夏、僕は脳梗塞という厄介な病気に罹ってしまいました。それで毎日新聞に
連載中の『孤道』を、休載せざるを得なくなりました。
現在は療養中ですが、長い文章を執筆するには、まだまだ時間がかかりそうです。(略)
療養中ということにストレスを感じ、小説を書けないことにかなり苛立っておりました
が、僕は短歌が好きであったことを思い出しました。そうだ! 小説は無理でも、短歌だ
ったらいけるかもしれない。そう思ったら、気持ちは少し楽になりました。
勿論いずれは小説を書くつもりです。いつまでも浅見光彦を遊ばせておくわけにはいき
ませんからね。それまではカミさん(早坂真紀)に協力してもらって、短歌を詠む……そう、
短歌でリハビリというわけです。 (後略)」
●収録短歌作品・計285首(内田康夫氏149首、早坂真紀氏136首)
●作家・西村京太郎氏、評論家・山前譲氏、歌人・東直子氏の書き下ろし綴込み解説付
【内田康夫氏作品より】
長い冬耐えて芽吹いた雑草にまだまだぼくも希望はあると
介護する妻は神か母親かときには鬼に見える日もあり
ぼくはまだ生きているのに心電図(死んでんず)折れ線グラフの今は谷底
この先をどうしようかと思いつつ途絶えたままの孤り行く道
車椅子目の位置低くなりし今見えぬものより見えるもの多し
【早坂真紀氏作品より】
乳母車押したことなき我がいま車椅子押して木陰を歩く
あと一度一度でいいから抱きしめて片手でなく両手できつく
離れればなぜか恋しくそばにいれば早く逃げたい夫の荒れる日
十三でアン・シャーリーは私だと騒いだ私がまだここにいる
レンギョウをあれはヤマブキと言い張ってそのまま逝くか夫の笑顔よ
2019.4.5刊
四六判上製/144頁
ISBN978-4-86272-613-1