〈歌集より〉
この夢がさめたらどこにゐるのだらうヒトなる確証なきは楽しき
無礼者に容赦なきカンフー映画みてカンフー歩きで帰るわたくし
重症患者残しハルビン脱出の二十四歳の母の終戦
出家とふ家出をしたり得度の席にそつと告げらる「袈裟が反対」
支ふるより教えらるること多かりき十病棟にまたひとり逝く
さんさんといつもとかはらぬ朝のきて息子の部屋に叫ぶおはやう
「最終章に息子さんの事故死がうたわれ、突如、生身の母の貌が浮かび上がる。
多彩な経歴の中にこの章をもつことが、出家者としての人生を重厚に見つめ直させる。」
(馬場あき子・帯より)
〈著者略歴〉
辻 裕弘(つじ・ゆうこう)
国立病院に60歳まで心理療法士として勤務ののち、大学病院と都内の学校に勤務する傍らカウンセリングルームを主宰。がん治療論文で日本交流分析学会より「第十二回桂学術奨励賞」、ペンネームで書いた小説で第11回「阿賀北ロマン賞大賞」ほか。東京新聞に「辻裕美子の心ホッとタイム」連載。
著書に『お母さんは笑顔がいい』(明治図書)、『「もう悩まない」悩み方』(主婦の友社)ほか。
2020.9.15刊
かりん叢書
上製四六判/216頁
ISBN978-4-86272-640-7
C0092 ¥2700E