二転三転しながら出来上がった歌集は、
Covid-19の感染が広がる前の世界をパッケージした一冊だった。
忘れずにとどめておきたかった風景たちだった——
(あとがきより)
「短歌研究」連載作品を中心に290首を収録。
『アシンメトリー』『鳥語の文法』に続く待望の第三歌集!
【歌集より】
前かがみに人々走らす広重の雨の角度をいま窓に見る
あきつ国なりし大地にパンプスを脱ぎ捨てて立つスニーカーのわれ
〈もう〉と〈まだ〉に揺らぐわれらは食べている明太子のせ厚焼き卵
翼鏡を光らせて発つ鳥だったドアミラー照り返したあのひと
心いま針のようなりひとすじの糸通さねば慰められぬ
あの雲はいちどきりなる夏の雲思い切りよく崩れてゆきぬ
装幀=花山周子
かりん叢書
四六判並製/188頁
ISBN978-4-86272-688-9