突っ立って徴兵を待つ棕梠の木に夕べホースの水をかけやる
鷹揚でゆったりとした、しかし神経の濃やかに
行きとどいた人生の時間が流れ、
読者は歳月の賜物のような深い人間洞察と
生きる智慧を感じとることになる。
──島田修三(帯より)
【歌集より】
嗚呼いつか私は私を出でゆかん揺り椅子にからだ添わせて漕げり
マイセンの水汲み女の腕ほそく余震のたびに水を零せり
麻酔よりともあれ醒めしまなかいに砲弾過ぎるあるいは燕
捨てられる前に己を捨てにゆくでんでら野なり朝のプールは
召集令状とどけに来しか垣根こえ紋白蝶がわが家訪いくる
歌詠むとつゆしらざらん従きてくるルンバよ外は山茱萸の黄色
雪しまく大根(だいこ)ばたけに分けいりて右手に下ぐる光秀の首
【著者プロフィール】
曽我玲子(そが・れいこ)
1943年 滋賀県生まれ
1988年 「まひる野」入会
2005年 第50回「まひる野賞」受賞
2008年 第一歌集『薬室の窓』上梓
2021. 6.16刊
まひる野叢書
四六判上製/196頁
ISBN 978-4-86272-673-5