「(作者は)引き揚げ地の舞鶴を訪ねる。海軍根拠地の呉を訪ねる。
千鳥ケ淵戦没者墓苑のようなところにも行く。
「戦争」の痕跡をみずからの目と足で確認して行くのである。
そのアンテナはやがて昭和史に向かい、さらにはわが国の近代史、
二十世紀の世界史に向かい、歌を武骨で屈曲の深いものにしてゆく。」
── 小池光(帯より)
『朱鳥』『ヒカリトアソベ』に続く第三歌集。
タイトルの『時間グラス』とは、ナチズムに屈しなかったエルンスト・
ユンガー『砂時計の書』に魅せられたことによる。
【歌集より】
抉られしままの背骨ひとりびとりにこの国を戦後を問いて「この春」往かず
砂時計を時間グラスと呼ぶときのすいせんの香をこめて雪ふる
ゆうあかねのなかに帰れり亡き者と距離をちぢめて生きてあること
おどろきにみちて学びぬ昭和史のゼミの十年若きらにまじり
ラ・マルセイエーズわきたつパリに流行りたるダリア「裏切り」の花言葉もつ
海というあかるい大無為に呑み込まる『老人と海』読みしいく日は
装幀=間村俊一
【著者プロフィール】
池田裕美子(いけだ・ゆみこ)
「短歌人」「鱧と水仙」に所属
2022.3.20刊
四六判上製/184頁
ISBN 978-4-86272-696-4