岡本和子さんは、春には春の、秋には秋の花畑のなかに佇んでいるような人である。
人生の大きなドラマではなく、ささやかな日常の照り翳りをこそ大切にうたう作品世界には、自然も人も物もみな、はじめからなつかしい気配をもってそこに在る。
抜群の詩的センスとゆたかな表現力が、多くの読者を魅了するだろう。
──小島ゆかり(帯より)
【歌集より】
銀座には銀座の秋の空ありて小さき画廊に椅子ふたつ見ゆ
梅雨曇る工事現場のラジオから聞こえてきたり首相の答弁
顔よりも歯に憶えある歯科医師の父はなじみの歯を見ておじぎす
学問の樹のごとき夫帰り来ぬ雪に眼鏡と肩を濡らして
待たせても待っても少しかなしくて病院九階海見える茶房
装幀=鈴木成一デザイン室
2022.6.23刊
四六判変型/188頁
ISBN978-4-86272-712-1