石井さんの感覚に触れると、日常身辺の物や事が、その存在の背後に抱えている
影や時間とともに、不思議な趣をもって歌に映し出されてくる。
第九回中城ふみ子賞受賞作「さをりの空」に至る作者のさまざまな試みを、うた
とことばの歴史や現在と合わせて、一首一首じっくりと味わっていきたい。
── 内藤明(帯より)
【歌集より】
甕底に金魚しづみて手のひらに受けるみぞれは雪よりさむし
水琴のひびき思ほゆ目覚めたる春のあけぼの児がゆまりせり
包丁を紙にくるみて研屋まで持ち行くはやまる鼓動聴きつつ
昼時のニュースに見たり焼き菓子の名前のやうなセシウムボール
冬の川ひくく流れて川端と中洲が指をからめてゐたり
【著者プロフィール】
石井幸子(いしい・さちこ)
1951年 東京生
1996年 音短歌会入会
歌集『江戸の犬』『挨拶(レヴェランス)』がある。
装幀=鈴木成一デザイン室
2022.9.30刊
音叢書
四六判変型/248頁
ISBN978-4-86272-724-2