平穏な家庭生活を送る作者の歌の世界は決して広いものではないし、
劇的な展開があるわけでもない。
しかし、生来の鋭敏な感性は、身の回りのものに陰影を与える。
対象を凝視する真摯な作歌姿勢が、趣ある作品を生み出した。
──中根 誠(帯より)
【歌集より】
手まわしの鉛筆削りに溜りたる木屑にもあり森のにおいは
新薬は効いていますか文月の庭に桔梗の咲き続きおり
ほろほろと卵煎りつつ固まらぬ白身の行方を見定めている
拾い読みしては今年も捨てられず古い日記に子の歩む日日
残りたるくれないのバラ一輪に庇うようにも冬の陽とどく
2022.10.1刊
まひる野叢書
四六判上製/212頁
ISBN978-4-86272-716-9