祈りの向こうに人がいる。
いま──
感じずにはいられない
陰翳と
求めずにはいられない
その向こうの光
『裸眼で触れる』につづく2017年夏から2022年夏までの387首を収めた第四歌集。
「戦争や災害や身近な死によって影絵のなかを歩んでいるような、その向こうの光を
求め続けるような日々だったと思う。人生の半ばに差し掛かり感じずにはいられない
陰翳を、『せかいの影絵』という歌集名に籠めた。」(あとがきより)
【歌集より】
月夜といふ濃紺にひたすガラスペンのねぢれの尖からひらかれる秋
STAY HOMEの呼びかけに取り残されつ春雷に家を持たぬ人たち
だれにも見せない涙をシャワーに混ぜて哭く夜があつた筈なのに、きみにも
はおつてゐたシャツ脱ぎ捨てて発つやうに空港ピアノに放つメロディー
秋の日のプラットホームに行き来するこころ せかいの影絵を見せて
【著者プロフィール】
松本典子(まつもと・のりこ)
1970年、千葉県生まれ。早稲田大学卒業。
1997年より作歌を始め、同年「かりん」に入会、馬場あき子に師事。
第20回かりん賞、第64回角川短歌賞受賞。
歌集に『いびつな果実』(第4回現代短歌新人賞受賞)、
『ひといろに染まれ』『裸眼で触れる』。
現代歌人協会会員、日本歌人クラブ会員。
2023.2.5刊
かりん叢書
四六判変型・上製/172頁
ISBN978-4-86272-729-9