大島範子さんは本郷で生まれ、いまは神宮外苑の銀杏並木を散歩道として
暮らす人であり、戦中戦後から令和にいたる首都東京を見つめてきた人である。
実業家として、家庭人として全力で生きながら、文学を学び文化を愛する
ゆたかな人間性が、作品世界にはつらつとした魅力をもたらした。
都会的な先進性と大らかなユーモア、時代とともに生きる歳月の感慨、
そして家族や人生を愛する心。この歌集を持って銀杏並木を歩きたくなる。
――小島ゆかり(帯より)
【歌集より】
レモンの碑に桜はなびら貼りながら ゼームス坂は早や菜種梅雨
首都焼かれ人の群れゐしこの地下道液晶灯し少女行き交ふ
二十本の夫のネクタイ縫ひ合はせ仕立てしベスト早春を着る
「さやっぽ」と父に呼ばれしそのままに鞘走りゆく八十代を
救急車に運ばれながら病院を転々とするわたしはノマド
人生の波のうねりを想ひつつ 杖を頼りにゆつくりどつしり
2023.4.8刊
四六判変型・上製/208頁
ISBN978-4-86272-741-1