第22回 前川佐美雄賞受賞 ‼︎
ここに生まれて
ここがどこだか まだわからない
耳を澄ますと
遠く聞こえてくる声
わたしはひとつの声であり、また多声である
過去を、未来を、今を、短歌は不安な世界をどう聞き取るのか。
『歓待』から四年、あらたな方法を携え挑戦する一冊。
《歌集より》
あの川に兄が浮かんでこの沼に父が浮かんで 睡蓮咲いた
ウォーターリリーこんなしづかな戦場がここにウォーターリリーの姿に咲いて
生きるとはこのやうにリボンつけることリボンのうれしさ焼け残る服
わたくしは牝鹿に還り舐めにゆくウラニウムなほも鎮まらぬ火を
睡蓮の気持ちは人類誕生以前から変はらないまま 会へない人よ
《著者プロフィール》
川野里子(かわの・さとこ)
歌集に『王者の道』(若山牧水賞)、『太陽の壺』(河野愛子賞)、『硝子の島』(小野市詩歌文学賞)、『歓待』(読売文学賞)など。
評論に『幻想の重量—葛原妙子の戦後短歌』(葛原妙子賞)、『七十年の孤独−戦後短歌からの問い』など。
歌誌「かりん」編集委員。
2008、2009、2023年度「NHK短歌」(Eテレ)選者。
2023.8.10刊
かりん叢書
四六判ソフトカバー/196頁
ISBN978-4-86272-742-8