著者はその出生の謎にこだわり、自分捜しの迷路に立った。
これを機として父母や弟などの生が劇的な事実として展開される。
そして本歌集の主筋であるこの物語は、突如孫なるものの出生によって
打切られ、自らの生の象(かたち)がごく平凡に豊かに浮かび上がるのを自認する。
生きるとは、実に奥深いものだ。
──馬場あき子(帯より)
【自選五首】
妻と来てサハラ砂漠に跨がった少しかしいだ路舵の背なか
歩くには熱すぎるけど歩かなきゃパズルの私が壊れてしまう
雨の秋オリーブ畑にモロッコの泥の流れを映す猫の眼
サトウキビ畑の道を朝歩く兵士の父の歩幅をまねて
夜という地球の陰に立ち止まり闇に見上げる丸い日だまり
【著者について】
鈴木正樹(すずき・まさき)
1948 年9 月16 日 アイオン台風のさなかに生まれた
1974年 詩集『流れ』
1976年 詩集『把手のないドア』
1987年 詩集『刺に触れる』
1989年 歌集『風景の位置』
1995年 詩集『闇に向く』
1996年 「かりん」に入会(11 月)
2007年 詩集『川に沿って』
短歌「次はまだ来る」で かりん力作賞受賞
2009年 歌集『億年の竹』
2012年 詩集『トーチカで歌う』
2017年 詩集『壊れる感じ』
2020年 評論『「山の少女」と呼ばれた詩人』
カバー写真=著者撮影(メルズーガ大砂丘/モロッコ)
2024.6.2刊 かりん叢書第433篇
四六判ソフトカバー/192頁
ISBN978-4-86272-769-5