著者はその出生の謎にこだわり、自分捜しの迷路に立った。
これを機として父母や弟などの生が劇的な事実として展開される。
そして本歌集の主筋であるこの物語は、突如孫なるものの出生によって
打切られ、自らの生の象(かたち)がごく平凡に豊かに浮かび上がるのを自認する。
生きるとは、実に奥深いものだ。
──馬場あき子(帯より)
【自選五首】
妻と来てサハラ砂漠に跨がった少しかしいだ路舵の背なか
歩くには熱すぎるけど歩かなきゃパズルの私が壊れてしまう
雨の秋オリーブ畑にモロッコの泥の流れを映す猫の眼
サトウキビ畑の道を朝歩く兵士の父の歩幅をまねて
夜という地球の陰に立ち止まり闇に見上げる丸い日だまり
【著者プロフィール】
鈴木正樹(すずき・まさき)
1948年 アイオン台風のさなかに生まれた
1974年 詩集『流れ』刊
1976年 詩集『把手のないドア』刊
1987年 詩集『刺に触れる』刊
1989年 歌集『風景の位置』刊
1995年 詩集『闇に向く』刊
1996年 「かりん」に入会(11 月)
2007年 詩集『川に沿って』刊
短歌「次はまだ来る」で かりん力作賞受賞
2009年 歌集『億年の竹』刊
2012年 詩集『トーチカで歌う』刊
2017年 詩集『壊れる感じ』刊
2020年 評論『「山の少女」と呼ばれた詩人』刊
カバー写真=著者撮影(メルズーガ大砂丘/モロッコ)
2024.6.2刊
かりん叢書第433篇
四六判ソフトカバー/192頁
ISBN978-4-86272-769-5