生まれ育ち、今も暮らす秦野の地。
郷里の歌人、前田夕暮の研究に費やした生活が区切りを迎え、
二十余年ぶりの歌集を編む契機となった──『猫坂物語』に続く第四歌集
花ふふむ実朝塚にゆくりなく園児ら入り来ぬ声を撒きつつ
さへづりが川すぢづたひに遠のきて丹沢山麓春ならむとす
つどひ来し夕暮の郷里の公民館まどに阿夫利の横顔のぞく
マスクして修行僧らも行き交へり鶴見大本山参道の夏
秋ふかく山かげにひそむ村ありて小滝二ひら流れてをりぬ
在職していたキャンパスの風景や折り折りの感慨、
入院手術の体験、コロナ禍の日々、定年が近づく日々の想い、
そして定年後の丹沢山麓での暮らし、
九十代の母の介護の日々などを詠んできた。
そうした中で、ありし日の回想や身のめぐりを越えた領域へのうながしを詠むこともあった。
(後記より)
2025.9.20刊
四六判上製/224頁
ISBN978-4-86272-814-2
【目次】
第一章 実朝塚往還 二〇一三〜二〇一六年
丹沢山麓
春 愁
山麓の宴
この日頃
孤 雲
所 志
ゴム動力機
山麓小記
春あらし
水のひかり
不可解の箱
愚直な鴉
ドリブル
杳き日
ただ一度
冬日抄
丹沢武門
ふくろふ
北辺にあり
この日頃
第二章 枝道に佇つ 二〇一七〜二〇一九年
丹沢颪
そこまでは生
花絶えず
果てたり
花 束
虹のたつ町
雲の城砦
一 隅
吊り人形
過 言
珈琲の機嫌
黒き小箱
葛葉の里
だるまと坐る
ふりむけば虹
第三章 引き際 二〇二〇〜二〇二二年
山居小吟
オリオン
引き際
西の座は夏
想ひ出通り
秋日抄
冬に入りゆく
浅春の風
塑 像
この日頃
風小走りに
ピアノ曲
柱のこぶ
丹沢閑居
単線車輛
春愁歌篇
この日頃
狼 煙
砂の都
第四章 坂東の野へ 二〇二三〜二〇二五年
この日頃
坂東の野へ
葛葉河畔
定年退職の頃
雲は笑ひて
丹沢籠居
帆 船
皿洗ひ
丹沢歌篇
遠雷
トタン屋根に雨
籠居秋天
ライナー
守りのかたち
山麓諷詠
少年期の河
丹沢は春
後 記