フレイル……。健康と病気のあいだに潜む「虚弱」という意味らしい。
それこそ危うい現代を象徴する言葉なのである。そうか、虚弱なのか。
何かが足らないのではなく、虚弱な空気に覆われていたのか、と今さら
に省みるばかりである。しかしながら、「虚弱な」整形外科医の歌は案
外にしぶとく、また熱い生命力を放つもののようであった。
佐伯裕子(解説より)
【歌集より】
探してた鍵を見つけたそれでもね扉はすでにこの国にない
我になれぬわたしの影が夕暮れの風にほどけて路地へと消えた
もう夏は後ろ姿の海街に「焼き蛤」ののぼりはためく
空っぽのプールの底を這っている青い海月が見えるというの?
色だけで選ぶ〈彩りサラダ〉かな夜のファミマは光りすぎてる
太陽の届かぬ闇へエウロパの放つ光をガリレオは見つ
【著者プロフィール】
医師、歌人
筑波大学附属駒場高等学校出身。東京大学医学部医学科卒業。東京大学大学院で
博士(医学)を取得。専門は関節リウマチ、骨粗鬆症、リハビリテーション医学。
2002 年、神奈川県湯河原町に転居した頃より短歌を始める。
2023 年に未来短歌会に入会、佐伯裕子氏に師事。
受賞歴に、第10 回万葉の里・恋の歌ふるさと賞(2008 年)、『平成万葉集』
(読売新聞社)収載(2009 年)、第37回子規顕彰全国短歌大会特選・「短歌」
編集部賞(2019年)、毎日歌壇賞優秀賞(2025 年)がある。
装幀=藤田知子
2026.9.4刊
B6判変型並製/128頁
ISBN978-4-86272-833-3