鏡の私小説   栗原寛歌集

『Terrarium(テラリウム)』につづく第四歌集

40代を迎えた著者が年齢を重ねることの意味、自らの心身の
変化を意識しつつ、それらを映す鏡としての短歌を世に問う。
第一歌集から一貫して詠まれている「ジェンダーへの違和」も
時とともに変化し、新たな詩情を生んでいる。


栞=黒瀬珂瀾・楠誓英


概して世の男性は己の身体に無頓着だったのだ。自分は〈見つめる側〉
〈欲望する側〉〈浸食する側〉と信じて疑うこともせずにきた。
栗原さんは一貫してそのジェンダーの固定性にゆさぶりをかけ、
〈見られる〉男性としての自意識を抉り続けてきた。
そこに、旧弊なジェンダー観が蔓延し硬直した現代日本社会への
批評性があり、栗原さんの生の苦悩がある。
                          ──黒瀬珂瀾(栞より)


【歌集より】

わがかほに化粧をすればもうすでにアッシェンバッハ側の人間

Tシャツに透けるおもはく服のうへからでもわかるきみのからだは

よきにつけあしきにつけてわれに子のをらぬこと雪のやうに降りつむ

流れゆくエンドロールは僕たちを地上へ戻すゆるやかな蔓

水栽培の僕の鉢にはいびつなるかたちに伸びてゆくヒヤシンス

よるのゆめこそまことなれ乱歩邸かならず夜は閉ざされてゐる


【著者プロフィール】
栗原寛(くりはら・ひろし)
1979年 東京都西多摩郡五日市町(現・あきる野市)生まれ
1997年 朔日短歌会に入会
2001年 早稲田大学第一文学部卒業

歌集
『月と自転車』本阿弥書店 2005年(現代歌人協会賞最終候補)
『窓よりゆめを、ひかりの庭を』短歌研究社 2012年
『Terrarium〜僕たちは半永久のかなしさとなる〜』短歌研究社 2018年
(日本歌人クラブ東京ブロック優良歌集賞受賞)

楽譜
女声合唱とピアノのための『あなたへのうた』(大藤史作曲、高橋直誠編曲)音楽之友社
女声合唱による4つのポップス『栗鼠も、きっと』(信長貴富作曲)音楽之友社
混声合唱とピアノのための『いのちの朝に』(相澤直人作曲)カワイ出版
無伴奏男声合唱のための『三つの情景』(田中達也作曲)カワイ出版
男声合唱組曲『僕の愛、あなたの夢』(大藤史作曲、森田花央里編曲)パナムジカ出版
「あなたがいるから」(なかにしあかね作曲)パナムジカ出版   ほか


装幀=伊勢功治


2022.11.4刊
朔日叢書
四六判上製/148頁
ISBN978-4-86272-713-8
販売価格 2,500円(税込2,750円)

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