義弟とはだれなのだろうか
──ひとつ奇妙な歌がある。謎解きとしか思えない。
〈弟と義弟がともにいる部屋でわたしは義弟の名前を忘却した。義弟とは何者であるか〉
これがロゼッタの石と気がついた。 (平井弘・栞より)
「はちがついつか」はいつなのか
──現実を解体し、謎めいた箱庭世界で暴力や崩壊の予感を光らせる。
(大森静佳・栞より)
第37回現代短歌評論賞受賞の土井礼一郎による第一歌集。
【歌集より】
貝殻を拾えばそれですむものを考え中と答えてしまう
シヌノマダファミリーゆえの愛(かな)しさで珈琲茶碗転げていたり
ひとつだけほんとの父を入れてあるマッチ箱からとりだすマッチ
ひからびた義弟(おとうと)たちを折りたたむしごとさ 驚くよ、軽すぎて
わが夏にはちがついつかはくりかえし来る脚ながき虫にまたがり
蟻の尻にもゆでたまごしまわれてある取り出せぬものの例とて
てのひらにおとうとの棲む丘はあり手を叩こうとすれば手をふる
装幀=花山周子
【著者プロフィール】
1987年茨城県出身。東京都在住。
筑波大学大学院美術史領域修了。
歌人集団かばんの会所属。
2019年、現代短歌評論賞受賞。
東京新聞・中日新聞コラム「土井礼一郎の短歌の小窓」ほか、
短歌評論を中心に執筆。
2023. 4.20刊
四六判並製/132頁
ISBN 978-4-86272-738-1