亡き子とともに生きる ―自死遺族日記―      仰木奈那子著

【本文より】

何事にも懸命に努力して取り組んできた日出美、三十二歳で亡くなるのなら「そんなに頑張らなくてもよかったね。もっとゆっくり自分の好きなことをするとよかったね」と言ってやりたい。
 日出美の尊敬する人物は「ガリレオ・ガリレイ」、座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」だった。だから懸命に生きた。(つづく)

* * * * * * * *


日出美といふ人間の形ここに在りたましひ再びこの子に戻れ


これの世にありふれてある生と死に生かされて日出美の母となりけり


子とともに在るあかしとやこの頃を二輪づつ咲くさくらんぼの花


* * * * * * * *


国の機関、あるいは医師会には、娘のような研究医の立場の者を救える機関、たとえば研究医としての悩み相談室の開設など、早急に取り組んでほしいと願う。医師の働き方改革の一環として、研究医にも研究時間の制限を設けてほしい。また、研究に専念できるよう、医師としての仕事を遠慮せずに断ることができる自由を与えてほしい。娘のようにまじめで一生懸命になりやすく、人に気を遣うタイプの人間が追いつめられなくてすむ環境を一刻も早く整えてほしい。
 
日出美の死は過労死と言ってもよいと思うが、自分の意思で実験を続けたのだからどこへ相談することもできないでいる。人間関係で辛いとは言っていたが、実験が辛いとは一度も言わなかった。


《カバー》
写真   仰木奈那子
絵/手紙  針馬日出美



針馬日出美略歴
1983 年   埼玉県に生まれる
2002 年3 月 桜蔭学園高等学校卒業
2008 年3 月 慶應義塾大学医学部卒業
2015 年4 月 麻酔科専門医認定
2015 年9 月 慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程2 年にて死去
2015 年12月 平成27 年度より「Research Resident Day 最優秀賞」
       が「針馬日出美賞」と命名された(慶應義塾大学医学
       部麻酔学教室)
       『疾患特異的iPS 細胞を用いた悪性高熱症の発症機構
       の解明と新規診断法・治療法の開発』により、平成
       27 年度「Research Resident Day 特別賞」を受賞
2016 年3 月 歌集『針馬日出美全歌集』(仰木奈那子編集)
2016 年4 月 桜蔭学園図書室に針馬日出美文庫設置
2022 年6 月 歌文集『はりりんの歌』(仰木奈那子編集)


仰木奈那子略歴
本名 針馬ナナ子
1950 年   熊本県に生まれる
1981 年3 月 東洋大学卒業
2020 年3 月 神奈川県要約筆記者認定
       現在は神奈川県内の自死遺族の集い(わかちあいの会)
       スタッフを務めながら講演活動にも取り組んでいる
       (自助グループ自死遺族すまいる所属)
 歌集 『 まぼろしの花』『薔薇伝説』『仮想現実』
   『 風になりたか―家族回帰―』
   『 ◆◆◆◆◆恋蛍◆◆◆◆◆短歌に詠む源氏物語』『一人娘と母の歌集』
   『 日出美ちやんごめんねありがたうね』
   『 日出美ちやんの青空』



2024.6.11刊 
四六判・ソフトカバー/276頁
ISBN978-4-86272-774-9
販売価格 1,500円(税込1,650円)

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