第二次世界大戦中、
戦場に行かないまま撃沈され、
今も深海に眠る空母信濃。
その慰霊の旅を詠った
「九夏」を表題作とする第六歌集。
「本著には『舟はゆりかご』以降の、五年余の歳月があります。
コロナによる自粛生活の続くなか、人のいない山河に出かけては
澄んだ空気を肺いっぱいに充たしながら、纏めることができました。」(あとがき)
【歌集より】
なにかが来る前のやうにも遠のいた後のやうにも目をつむる馬 馬
しづみゐし空母信濃に白骨をゆらすかそかな水流あらむ 九夏
途中をいそぐ夢だつた やまぶきのつめたき土を猫は嗅ぎをり 犬枇杷
これの世は菌糸のつながり明けがたの森の出口に傘ひらく姉 ともしび茸
女の子の髪まつすぐに夏かげの瀧のにほひのする資料室 五月
足型のシールのうへに足かさねキレートレモンを一本抜けり 足型のシール
写真=楠本弘児
装幀=間村俊一
【著者プロフィール】
小黒世茂(おぐろ・よも)
1948年 和歌山県生まれ、大阪府在住
1989年 「玲瓏」入会、塚本邦雄に師事
1999年 第10回歌壇賞受賞
2000年 大阪短歌文学賞受賞
2005年 日本歌人クラブ近畿ブロック優良歌集賞受賞
歌集 『隠国』『猿女』『雨たたす村落』『やつとこどつこ』
『小黒世茂歌集』『舟はゆりかご』
エッセイ集 『熊野の森だより』『記紀に游ぶ―日本のわすれもの』
四六判上製/160頁
ISBN978-4-86272-679-7