きらきらと目にたちのぼる琥珀の香 虚空に問はむひとのことばは
「北の海が荒れると地層が抉られて、一部が海岸に流れ着き、
その中から琥珀がみつかる。琥珀は比重が軽いので、潮の流れに
乗ってバルト海を流され、時にイギリスの海岸沿いで見つかることも
あるという。そんな小さな、奇跡の石に対する憧れと畏敬の念を籠めて、
歌集題を『海の琥珀』とした。」(あとがきより)
【歌集より】
麦の伝播たどる頁にやはらかくみづほの国の秋の日は射す
Greenを緑さと訳し そののちの言葉かすかに紗を纏ひ初む
豆餅を食めるひととき口腔にほのほのと小さき観世音立つ
帽子掛けに帽子ひとつを掛けたればながく寂しき夕暮は来ぬ
凍てつく夜プロシアの沖に流れ着き琥珀はうすく潮の息吐く
【著者プロフィール】
岡部史(おかべ・ふみ)
1951年山形県生まれ
第45回及び第46回角川短歌賞最終候補
現在「塔短歌会」会員・編集委員
歌集に『宇宙卵』(筑波書房)『韃靼の羊』(砂子屋書房)など
著書に『古きよきアメリカン・スイーツ』(平凡社)『郷土菓子のうた』(ブイツーソリューション)など
訳書に『魔女図鑑』『オペラ座の怪人』(金の星社)など
2022.1.26刊
四六判並製/192頁
ISBN978-4-86272-692-6