魔法の言葉のやわらかな浮力によって、
記憶の中の見慣れた光景や懐かしい人たちが、生き生きと動き始める。
日々の時間の中から静かに紡ぎ出された奔放で端正な歌々に、読者は
生きる喜びと詩の醍醐味を覚えるに違いない。
── 内藤 明 「帯」より
【歌集より】
ドロップは色とりどりに凸(でこ)ありて小さき天使のゆたんぽなるよ
折りたたみ木椅子をさげて庭に出てときをり雲や木に見てもらふ
紅茶色の傘たてかくる隣室の幽霊(いうれい) 美人と告ぐる息子は
ほつそりと頭もたげて春蛇の しく ししししく水路下れる
木版画抱へてかへる秋の日のみしまゆきをといふ人死にき
また長き列は生まれて祖国より離(か)れゆく黒きりぼんのごとく
装幀=花山周子
【著者について】
笠井朱実(かさい・あけみ)
1957年 香川県生まれ
2002年 音短歌会入会
2005年 第22回音短歌賞受賞
2010年 第1歌集『草色気流』(砂子屋書房)刊行
同歌集にて第36回現代歌人集会賞受賞
2024.1.28刊 音叢書
四六判上製/240頁
ISBN 978-4-86272-758-9