題名とした『遊子』は、故郷の門司を離れて遠く転々とした生涯に、自分を
重ねあわせてつけたもので、旅することはもとより、人生そのものを旅に
なぞらえようとする心境から浮かんだタイトルである。
――山野吾郎(解説より)
【歌集より】
風は野に遊子身ひとつ吹かれゆく過ぎた時間は戻りはしない
老いてなほ「行きかふ年もまた旅人」草鞋に旅の芭蕉を憶ふ
入り乱るるスクランブルに男立つカラシニコフを構ふるなかれ
早春のお石の茶屋の梅しだれからくれなゐの古木が傾ぐ
あさがほのしまひの花は瑠璃の色どこかで誰か「いつてきます」と
とつぷりと暮れたる街の月あふぎやがてすべてが懐かしからむ
あなたの忌、やうやう詠める俯瞰にて「嫌ひ」と詠めぬわれの一世が
【著者プロフィール】
田嶋光代(たじま・みつよ)
1941年 福岡県門司に生まれる
1962年 結婚
2003年 夫の死を機に短歌「草原」入会
2006年 結社「ひのくに」入会
2009年 「ひのくに」新人賞受賞
2014年 「ひのくに」中島哀浪賞作品賞受賞
2017年 第一歌集『宰府の杜』出版
2018年 「ひのくに」功労賞受賞
同 年 『宰府の杜』により日本歌人クラブ九州ブロック優良歌集賞受賞
現在 「ひのくに」運営委員、編集委員
2023.5.1刊
ひのくに叢書
四六判上製/176頁
ISBN978-4-86272-736-7